遠くで鳥が鳴いた。
翔は目を覚ました。元々早寝早起きの生活を送っているが空が青く明ける前に起きるのは珍しいことだった。窓の色を確かめてはまた目をつぶってみるが、しばらく経って諦める。上体を起こしてベットに座り、意味も無く指を動かす。
あの日からたまに夢を見る。少しずつ内容は違うが、いつも千真が出てくるのだ。矢に当たる姿やスオルに攻撃される場面を見せられる。でも今日はちょっと酷かったなー等を考えながら頭の中で夢を再生する。
いつものように矢を持っていた。撃った直後の姿勢。兎すら当てられなかった矢が神に突き刺さる。隣でスオルの笑い声が聞こえる。逃げるはずの千真が倒れ込み動かない。その瞬間、俺はこれが夢じゃないという考えに囚われてしまった。必死になって千真を呼び、前に進もうと藻掻く。しかし少しも動いてくれない足を睨むと、スオルが横を通り過ぎては矢をつがえる。待って、待って、泣き叫んでみても矢はそのまま弓を離れ千真の胸に辿る。ようやく地面から放たれた足を動き、みっともなく涙を流しながら千真を抱き上げると、千真が耳に囁いたのだ。
「お前のせいだ。」
千真の脈が上がって顔を上げると、腹に短刀が刺さっていて、その握りには俺の手が載せられていた。
君のどう償えばいいんだろう。
小さく溜息をつく。要らないことまで考えてしまうのだ。止めたくても止められない。もし、あの時スオルの家を訪ねなかったら。千真を一生忘れてしまったら。
翔は肩を竦めいた。犯した罪が重い。でも挽回の方法も分からない。今も傷を隠しているはずの千真の腕を思い浮かぶ。俺みたいな愚鈍な人間が側にいたからー桃色の瞳が微かに光る。
そうだとしても、君だけは。
態と鼻で笑ってみる。神相手に何を考えているのだろう。自分が気持ち悪くて身が震える。
翔は枕に頭を預けた。ただの夢だった。俺はこんぐらいで揺れない。正午が過ぎて起きる予定の男が目を瞑った。
遠くで鳥が鳴く。