いつにしようか。
スタンドの明かりだけを付けといた部屋でひなたが悩んでいることである。矢後が好きだ。今日の夕焼けにそう気付いた。
告白しようって決断したとはいえ、一度もしたことのないことだ。無駄だとは分かっていても、考えをやめられない。もし、振られたらどうなる? それで、好きな気持ちは消えてくれるのだろうか。私の指揮、もうもらいたくないとか言ったらどうしよう。
「はぁ…」
でもひなたは知っていた。自分は、言わないと気が済まない性格であることを。
二人きりになる機会があったら直ぐしよう。
スタンドを消して、ベットに横になる。そういえば、何時間前は矢後が横たわっていたベットだ。静かに目を開けたひなたは舌を打った。今日は寝そうにない。
ーーーーーーーー
「おい。」
「ううん…?」
のんびり答えて、ここ数年間、朝起こしてくれる人なんていなかったことに気付く。ドアには確かに鍵がかかっていたはずなのに。頭を働かせたが、ALIVEの社内だから不審者はいない、みたいな安易な思いしか浮かばない。ひなたは眉間にしわを寄せた。
「誰…?」
カーテンが風に戦いで、差し込む日差しが目を開かせない。
「あっち行け。」
矢後だ。人の部屋に勝手に入って来たくせにあっち行けっなんだ。しかし、侵入者の身分を知って緊張が解ける。
「何だ…どうやって入って来たの。」
「ああ? ただ開けたけど。」
そんなはずがなかった。首を突き出して見ると、見事に壊れている取っ手が床に落ちてある。ため息を付いて、光を避けるためベットの隅っこに身を運ぶ。もうちょい寝よう、と思ったが、シートの揺れと同時に背中で感じ取れる温かさに目を見張る。
「な…何やってんの?」
「見りゃ分かるだろ。」
「いや、見れないけど。」
「うるせぇ。」
鼓動が速過ぎてバレそうだった。いっそ、今、やろうか。ひなたは深呼吸して、矢後の方に身を回した。
「ねえ。」
「何だ。」
「付き合わない?」
はあ?! 珍しく大声を出した矢後が慌てて上半身を起こした。その姿に、ひなたは少し余裕を取り戻す。
「顔赤くなってかわいいな。」
「っ、余計なこと言うんじゃね!」
完全に立ってしまう前に、ひなたは矢後の服を引っ張った。
「矢後、好きなんだ。」
「な…」
黙らせるつもりで口を開けたが、ひなたの震える手に逆に黙らせられる。舌を打っては、再び横たわってしまう。ひなたがうつ伏せになって矢後を見つめる。
「それで?」
「…何がだよ。」
「どう? 付き合うの。」
「好きにしろ。」
本当? 背中からも感じられるひなたの陽気さに、矢後は腕で顔を隠した。ほんとに変なやつだ。そう思った時、肩を捕まれひなたと顔を向き合わせられる。彼女はにこっと笑った。
「ちゅうしていい?」
「正気か。」
膨れっ面をしたひなたが矢後に乗っかる。
「じゃ、」
「イヤだ。」
「まだ何も言ってないよ!」
ーーーーーーーーーーー
矢後は目を開けて自分の上で寝ているひなたを横たわせた。付き合う、ということが正確にどんな意味かは分からない。しかし、こいつがそうしたいって言ったからいいんじゃないか、と思ってしまう。俺が好きなのか。この部屋に入って、しばらくこやつを見下ろした理由も、そういうことかな。
ひなたの頬をぷにっとつまんだ。柔らかい。そのまま口付ける。また、柔らかかった。
「−相手の同意なしにしたら犯罪ですよ。」
ひなたの赤い目が見えた。
「起きっているの知ってたっつの。」
軽い接触に過ぎない。そう自分に言い聞かせていた矢後だったが、さすがにひなたがもう一度口付けをした時は表情を保てなかった。ひなたはししっと笑って矢後を懐に閉じ込める。
「顔見せたくないでしょう。」
「うるせぇ…」
空気が甘ったるく感じられた。可笑しくなってしまったと、二人とも思う。そしてそれがあまり悪くないってことも。