창작

志摩晴輝

myeolsi 2021. 11. 26. 01:43

日差しの素晴らしい日、忍術学園の事務員小松田秀作が門の周りを箒で掃いていたところだった。トントン、とノックの音が聞こえた。滅多に聞くことのない大人気なノックだった。

 

「は~い、どなたでしょうか」

 

まだ答えも返って来なかったのにギィッと門を開けてしまうと、暗い青緑系の髪を持った少年が立っていた志摩晴輝(しまはるき)と名乗った少年は、腰につけていた鞘の黒い刀から手を下げては忍術学園を訪ねた理由を簡潔に説明した。

 

「へぇ、そーなんだ。そんなに遠くから」

 

と、多少曖昧な反応を見せた小松田は、箒をもとに戻してから学園長先生に案内してあげると言って場を去った。

 

そして決して短くない時間が過ぎたのだ。それなりに根気はあるつもりだったが、長旅をした足は相当疲れていた。お願いに来た者がそちら辺に座っているわけにもいかず、いっそ歩き回ってみようかと晴輝は事務員のいなくなった方向へ足を運んだ。もし何らかの事情で遅れているのなら手伝おうと言い訳をしながら敷地内を歩いていると、ふと木の枝に貫かれている葉が目に入った。母上がいつかおっしゃっていた罠のサインだと気づき、その横を通ろうと足を踏むと、

 

「え?」

 

水面を歩こうとしたように地が凹み、あっという間に薄暗い土の中に落ちてしまう。志摩晴輝人生初の落とし穴であった。

 

 

 

 

涼しい土の中で丸くなった晴天をぼんやり見上げていると、上から「誰か~!」と助けを呼ぶ小松田さんの声が聞こえた。なるほど、あなた方もですか。答えてみると、なんだか嬉しそうな声が返ってきた。

 

「大丈夫~もうすぐ授業が終わる時間だから~誰か来てくれるよ~!」

「かしこまりました!」

 

何故か慣れている気がして、落とし穴に落ちるのって忍術学園では日常茶飯事なのかなと安心してみる。しかし、第一印象が落とし穴に落ちているやつになるとは。苦笑いをしては胡坐をかこうとしたが、痛みが襲ってきてびくっと動きをとめる。足首の様子を見ると、どうやら落ちてきたとき捻挫したようで、気付くとずきずき痛み始める。鼻でため息をついては、片方の足だけ延ばしておく。少し疲れた。刀を鞘ごと抜き、肩に立てかけてる。目を閉じると、土の中は案外居心地よかった。

 

 

 

 

かすかな振動に目を覚ます。地震か?生き埋めになりたくはないのでぐっと立ち上がると、空は依然として青かった。振動に集中して、少し慌てる。ますます強く、そしてなぜか近くなる揺れと音に刀を握っていた手に力が入った。聞き覚えのない男の子の声が聞こえると思った瞬間、脆くても崩れることはなさそうだった土壁が土煙を上げながら崩壊する。後ろに背をもたれて刀を抜こうとしたが、土煙の向こうで素早く伸びてきた手にふさがれる。‘人?’と疑問を浮かべた刹那、ぬっと顔が近づく。その後ろを、高めに結ばれたふさふさした髪の毛が付いてくる。

 

「誰だ?」

 

驚きにぼうっとしていると、あり得ないところで現れたその子は眉を顰めてこっちを睨んでいた。はっと気を取り直してもたもた離れる。

 

「志摩晴輝です」

「ここで何をしている」

 

丁寧語を使うべきだったのかとどうでもいいことを思う暇も与えられず次の質問が入る。忍術学園の人?相手の、自分の手ごと抑え抜刀を阻止した手と、その手に握られたくないを見下ろす。

 

「学園長先生のお目にかかろうと参りました」

「学園長先生に?そっか」

 

それでよかったのか、男の子は距離を置いた。くないを懐に入れる相手をじっと見ていると、男の子はふと顔を上げた。すぐに自分も第3者の気配を感じる。

 

「おやま。七松先輩が落ちたんですか?」

 

濃い紫色の忍者服を着た子がこっちを見下ろす。チラッと横を見て、「七松」と覚えて置く。

 

「落ちてない!塹壕を掘ってたらつながっただけだ!」

「そうですか。…で?隣は?」

「学園長先生に会いに来たそうだ!」

 

へぇ。どうでもいい感溢れる答えをポイっと口にして、「じゃ、」とその子は行ってしまった。軽い静寂に包まれる。行っちゃったのか?助けてくれずに?しばらくしては小松田さんの声が聞こえた。会話の内容から見て、どうやらさっきの子がこの落とし穴を掘った犯人っぽい。

もう一度チラッと七松を見ると、何故かうずくまって自分に背を向けていた。

 

何を?」

「見りゃわかるだろ、おんぶだ」

 

おんぶ。噓でしょとただ背中を眺めていると、急かすように振り向く。

 

「早く来い!足がくじけただろ?」

「あ、は、い

 

恐る恐る近づいたが、これ以上どうすればいいのかさっぱり分からなかった。これも虐めか?勇気を振り絞ってゆっくり手を伸ばしていると、結局七松は立ち上がった。怒るだろうかとビクッとしていると、一瞬で背中と膝の後るを腕で支え持ち上げられる。室町時代にはない言葉だが、いわゆるお姫様抱っこである。咄嗟に両手で刀を握り、胸の中央にしてから驚く。自分は前に住んでいた町で五本の指に入るほど背が高かったのに、すらっと持ち上げられるとは。

 

「動くなよ」

 

七松は自分を抱え上げたまま、はみ出た晴輝の足が辛うじてかからない幅の塹壕を歩き出した。

 

「ありがとうございます…重くないですか」

「これくらいどうってことない」

 

顔が赤くなった気がして七松を見上げずに聞くと、はきはきと答えてくれる。随分と長い塹壕を抜け出すと、低学年生に見える子どもたちが目を丸くしてこっちを見ていた。下してもらえないかと囁いても「お前怪我しただろ」と却下される。ざわめく周りからの視線を浴びていると、不運だと思わざるを得ない。

 

 

 

 

薬剤の匂いがする医務室の中で、伊作さんからもらった包帯を巻く。外部者が処置を拒むとか生意気に見えただろうに、快く許可してもらい、いい人だと思う。足首を十分に固定して結びを作ると、伊作さんがにこりと微笑んだ。

 

「上手だね。治るまでは無理しないでね」

「はい。ありがとうございます」

「保健委員の本分だよ。怪我したらいつでも来るように」

 

晴輝が「委員会活動もあるんですね」と相槌を打つ。伊作はそうだよと頷くと、突然何かを悟ったようにはっと息を吞んだ。保健委員会は高学年が不足している。外見から見ても振舞いから見ても、晴輝が低学年に配属されることはまずないだろう。ここで入会すると言質でも取っとけば…せめて誘っておけば…!伊作は横目で小平太を見た。暇なのかぼーっとしている。その気抜けする姿にくっ、と声を殺して心を決めた。公平に、すべての委員会を見学した後で、自ら選択する機会を…

 

「あれって、サルノコシカケですか?」

 

室内をじろじろ見ていた晴輝が棚の上のキノコに視線を止め、貴重なものなのにすごいですね、と口元を上げる。その手をぐっと握って伊作が真剣な顔で素早く囁いた。

 

「保健委員会に入るのはどう?」

「はい?あ、えっと、私で良ければ」

 

晴輝と伊作が笑い合うことをおかしく思いながら、小平太が立ち上がった。手当も終わったし、学園長先生のところへ届くつもりだった。いきなり煙玉が飛んできて、医務室の中に煙が立ち込める。せき込んでいる途中に、煙の中で人影を見かける。先に口を切ったのは伊作だった。

 

「学園長先生!」

「学園長先生⁈」

 

立ち上がろうとする晴輝の左肩を伊作が、右肩を小平太が捕まる。包帯を巻いた足首を見下ろした学園長先生は軽く目配せをくださった。頭を下げ、なるべく丁寧に膝を正すと、学園長先生は立ったまま話を進めた。

 

「小松田くんから話は聞いたぞ、儂に会いに来たと?」

「はい。実は、」

「待て!」

「は、はい」

 

昔聞いた天才忍者だ。大人しく口を噤む。

 

「かくかくしかじかで良い」

「…と、おっしゃいますと?」

 

学園長先生の決然たる表情を伺って、恐る恐るまた口を開く。

 

「かくかくしかじかで、入学を」

「許可する!」

 

状況を把握する前に、両側からおめでとうの言葉が聞こえる。これも、日常茶飯事、なのかな。きょとんとした顔をしていると、学園長先生は「君のお母さんから手紙が届いているよ」と言い添えた。

 

「ヘムヘム」

 

学園長先生について来た忍犬が濃い紫の忍者服を晴輝に渡した。学園長先生がはきはきと宣言する。

 

「晴輝くんは今日から忍術学園の4年は組の忍たまだ!委員会もあるから、好きなところに入るといいぞ」

 

七松の頭の上にビックリマークが浮かぶ。

 

4年生か!体育委員会に入れ!委員会の花形だ!

 

困っている晴輝の前を伊作が遮る。

 

「小平太、晴輝はもう保健委員会に入ると約束したんだ」

「何?!

「すまない、早い者勝ちっていうか…」

「卑怯だぞ!」

「失礼します」

 

タイミングがいいのか悪いのか、扉を開けて金髪の少年が登場する。揉めている二人に構わず学園長先生の紹介が続いた。

 

「あ、案内役のタカ丸じゃ」

「よろしく、晴輝!」

「よ、よろしくお願いします」

 

目まいがするほど活気づいた雰囲気に少々疲れながらも、4年は組の晴輝は笑った。